フロンティア魂 #1
#1「世界最高のワインの“居場所”を創る」──さくら製作所・穂積亮雄が語る、セラー革命の哲学と挑戦
「ワインの価値は、どこにどう眠るかで変わる」。
画期的な冷蔵技術で、ワインセラーの常識を覆すさくら製作所。その原動力は、“人間味”という熱きスピリットだった。
あなたの大切な1本に「最適な居場所」を──“冷やす”を超えた、共感型セラー
「うちは“冷蔵庫”を作ってるわけじゃないんです。」
そう語るのは、ワインセラー業界で急成長を遂げた【さくら製作所】代表・穂積亮雄氏。ワイン、日本酒、クラフトビール──液体の種類に関係なく、その酒がもっとも美しく輝く“温度”を極めることが、同社の開発思想だ。
「“ワインセラー”という言葉自体、実はあまり好きじゃないんです。あらゆるニーズに応えるには、“ジャンル”に縛られないことが大事。個々のお客様の“飲み方の哲学”に寄り添えるセラーを作りたい」
現在は150本収納の業務用モデルに加え、3温度帯制御や最新のLED・棚設計を搭載した新型開発も進行中。プロフェッショナルの現場が求める機能性と、“人の気持ち”を融合する設計思想が、世界中の愛酒家を惹きつけている。
日本酒・ビールとの融合、そして“世界”へ──セラーの進化が酒文化を変える
「温度管理に無頓着ではいられない。むしろワイン以上に、日本酒やビールの繊細さに対応することで、セラーとしての本質が磨かれるんです」 「ワインは10~15度、外気温との差はだいたい10~15度。そういう冷蔵機器よりは、日本酒やビールにも対応する、マイナス5度まで管理できる機器の方が、結果的にワインセラーとしての能力も高くなり、温度管理の安定性も出ますし、電力の節約にも繋がります。」
さくら製作所のセラーは、ワインの10~15℃帯だけでなく、日本酒の氷温貯蔵を可能とする-5℃、ビールの0~5℃帯まで対応可能。これが、国内の一流酒蔵──獺祭をはじめとする名門ブランドからの信頼にもつながっている。
台湾を皮切りに、アメリカ・中国市場へも進出を準備中。
「日本でも海外でも、お店の規模、業態、それぞれに求めるニーズは、BtoBもBtoCも人それぞれなので、業務用であれば、お店のかゆいところに手が届く機能を増やしていきたいですし、それぞれの求めるニーズに合わせてレイアウトできるものにしていきたいですね。」
「“お酒文化を運ぶ箱”として、世界の頂点に挑みたい。それが、僕らの夢なんです。」
「アフターケアに10年費やした」──人にしかできない“寄り添い”で、信頼を築く
創業以来もっとも苦労したのが、“全国どこでも安心して使える”アフターサービスの体制構築だったという穂積氏。
「コンビニの冷蔵ショーケース修理業者に5年間交渉して、全国カバーの修理網を構築しました。効率よりも“人の感情”を優先したかったんです。」
「“全国のお客様に対して、平等に修理をしたい”という気持ちがあるのですが、東京であれば修理に訪問できるのですが、沖縄や北海道などの遠方になるとそれが難しいんです。」
「そこで考えたのが、コンビニのショーケースメーカーに修理を何とかやってもらえないかと頼み込んだんです。全国どこにでもあると言えばというところで、コンビニだと思い、コンビニのショーケースだと、開け閉めも多く頻繁に壊れているイメージなので、近くに営業所があるんじゃないかと思って、その仮説はあたっていたのですが、そこから頼み込むのに5年はかかりましたね。コストもかかりますし、まず知らない機器だからと言われたので、マニュアルを作ってどうやったらやってくれるかを交渉し続けました。」
「修理の方が100%お客様のところに駆けつけて対応してもらえる環境になっています。冷蔵庫とか洗濯機などの他の電化製品は修理に来てくれるのに、ワインセラーはだめって何かそれだけでだめだと思うんですよね。いくら良い商品をつくっても、結局アフターケアができなければ、高価なものを買う意味ってないと思うんです。」
修理対応が必要なとき、100%現地訪問を実現する仕組み。
それは、大手家電メーカーさえやらない「人にしかできない信頼設計」だった。
「人に支えられて、今がある」──還元の精神と“縁”の循環
「“とにかくお客様に気持ちの面で寄り添いたい”という気持ちがあって、そこがあるばっかりに、体制を構築することばかり考えてしまうと機械的な対処をしてしまうこともあると思うんです。こういう商材こそ、『感情的に寄り添っていく』、『人間味』というところが肝になってくると思います。」
「恩を受けたら、必ず誰かに返したいんです」と穂積氏。
前職では想いが届かずくすぶっていたが、仲間に背中を押され、1台の米冷蔵庫開発をきっかけに起業。今では16名の精鋭チームで業界を牽引している。
「酒の世界は、“縁”の世界なんですよね。美味しい1本を誰かと分かち合った記憶が、必ず次の縁に繋がる」
そう語る穂積氏に、ソムリエ代表の守川も共鳴する。
「弊社もワインのインポーターとして世界各国のまだ知られていない生産者を見つけるところから、BtoBからBtoCまで幅広いお客様と関わり、実際にお客様の声を頂いていますが、ただワインを輸入販売しているだけではなく、やっぱりそこには「人」が繋がっているんですよね。」
「ワインをただ売るだけではない。造り手と飲み手を、人と人でつなぐ。それが私たちの使命です」
目指すは、“世界の最高峰ワイン”が眠るセラー
最後に、穂積氏の目指す未来を問うと、返ってきたのはこんな答えだった。
「ここからは攻め時ですね。ここから10年くらいで今まで培ったものをお客様やお取引先様に還元していきたいですね。」
「関わっているワイン業界・日本酒業界の方々がとても元気なんですよ。シンプルにそういう方々にどういうかたちで貢献できるか、ですね。ワイン・日本酒の長い歴史の中に携わる、それが楽しい、純粋な気持ちがあります。」
「目指すべきところは、売り上げの台数とかセラーのシェアとかではなく、最終的には、ロマネコンティだったり、シャトームートンだったり、世界中のワインのストックシェアが欲しいんです。」
「シャトー・ムートン、ロマネ・コンティ、シャトー・マルゴー……。そういう世界最高峰のワインを保管するなら“さくら製作所のセラー”。皆にそう言われる日が来るまで、進み続けますよ」
守川の視点:“人の温度を保てる会社が、ワインの温度も保てる”
さくら製作所の話を聞いていて感じたのは、“温度”を守っているのは機械ではなく、人の想いだということです。
私たち株式会社ソムリエも、BtoCだけでなくBtoBの現場で、お客様の感情や期待にどう応えるかを常に意識しています。
ワインのインポーターとして、そしてこの業界に挑む一人として、「人間味あるビジネス」が、これからの時代を切り開いていくと確信しています。
〈さくら製作所株式会社〉
2014年創業、現在11期目。ワインセラー、日本酒セラー専門のファブレスメーカーで、液体温度を制御するテクノロジーを研究開発し、特許取得の独自技術を駆使してワインや日本酒を適温に保つ冷蔵機器を製作、販売。
全国有力家電量販店でのワインセラー部門において、2018年から2021年まで4年連続で販売台数と販売金額ともにシェアNo.1を獲得しました。メンバーは正社員が6名でパートスタッフ3名。中国にも専属スタッフが4名おり、役員3名とあわせて16名の組織。
ゲスト:
代表取締役 穂積亮雄氏
商社での経験を経て、2014年に“さくら製作所”を創業。
3DCADによる精緻なモデリングやアセンブリ技術を独学で習得し、製品開発の上流から下流までを一貫して手がけるエンジニアリング思考による開発スキームを実践。独自に開発した「氷温冷蔵」の制御技術では特許を取得し、日本酒の繊細な熟成環境を再現する革新的なセラーを世に送り出す。
その品質と思想は酒蔵からも高く評価され、ワインセラーだけでなく、”日本酒セラー”のリーディングブランドとして海外から注目を集めている。